もみじがため

それなりの昔にアルバイトで道路舗装の工事をしていたとき、コールタールで歩道を埋めている最中に近くの街路樹からもみじの葉が落ちてきては、それを拾わされていた。しかし、その紅葉が埋まったままの歩道。というのが、あまりにオツなので夕闇に誤魔化しながら、モミジを取ったということにして、ある一帯を紅葉のままにしておいた。それから、その場所へは二度と行っていないのだけど、毎年秋にどこかで紅葉を見るたびに、あのときにあそこに立っていた自分を思い出す。
それからよく、道路工事やガス管の工事に土の中にいろいろな物を埋めることになるのだけど。それもまた別の話しだ。


今年は小説をたくさん読んだ気がするのだけど、この一冊というのがすぐ出てこない。すぐに思い出すのは、小説ではないけど、豊崎由美大森望の「文学賞メッタ斬り!」か。これは文学賞や選考の批評や批判と読むよりも、回りに好きだと言う人がいない作家をきちんと讚えてくれているところがすてきだ。

やはり、文学賞では日本ファンタジーノベル大賞を、きちんと現代の海外文学と同列に語っているところが二人らしいところ。酒見賢一の「後宮小説」、佐藤亜紀の「バルタザールの遍歴」は、遠い歓声のように思い出す。北野勇作恩田陸小野不由美。は、そんなに好きではないのだけど、この賞らしいのは、池上永一バガージマヌパナス」、井村恭一「ベイスボイル・ブック」。この二つは、本当にガルシア=マルケスボルヘス風のマジックリアリズムに。あくまでそれ風に弱い人たちにはたまらない味がした。
ベイスボイル・ブック 童貞 (集英社文庫) バルタザールの遍歴 (文春文庫) かめくん (徳間デュアル文庫) 文学賞メッタ斬り!

ただ、いかに渡辺淳一宮本輝が候補作を読んでいなかろうが、読めなかろうが、出てくる作品はどこかで必ず人の前に。それを欲している人の前に出てくるし。書き続けていく人は書いていくのだろうな。と、最近の若い女性作家の小説でもその瑕を含めていいばん面白がった「セーフサイダー」宮崎誉子を読んで思った。人は会いたい人には、いつか会える。と、そういうこと?
セーフサイダー