恩田陸 「夜のピクニック」ISBN:4103971053

恩田陸は、「六番目の小夜子」から幾つかを読んでいるのだけど、あまり記憶に残らない。そんな失礼な読者がこの素敵な帯(ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説)に惹かれて魔が差して買ってしまったこの一冊。やはり魔はさされたままだったのだけど、たしかにこれは青春小説だった。そしてそれは、現代の高校生を描いた青春小説ではない。登場人物と同じような優等生だった作者が、これも登場人物の一人のような「もっとちゃんと高校生やっとくんだったな。損した。青春しとけば良かった」という可愛い後悔で充ちている小説。そしてそれは、実のところ、わたしを入れた恩田陸の小説なんてさらっと読んでさらっと忘れてしまうたいていの今の大人たちのことなのかもしれない。
設定はとても魅力的。高校生活最後のイベントの夜を徹して八十キロを歩き通す。そして、誰かが誰かを思うさまというのが普通。ただそれが、普通の高校生を描くというにしても、魅力がなく名前がつけられていても、その人物がどういう人なのか全くわからない。恩田陸が超能力やミステリィをまとったところで感じさせるノスタルジィもそれを取ってしまうとたださびしい。今の女子高生ら若い女性作家達の普通だけど存在感がある人間に、負けているのもさびしい。
本は厚いのだけどとても読み易い。だけどそれは何故か後半になると殆どが一センテンスで一改行となる空白の多さ故なのかもしれない。こんなにすかすかな紙の使い方をしないでもっと地球に優しく中身は濃くいろいろなものを詰め込んでほしかった。