小説

 誰かが手を、握っているような気がしてならない

きっと添削文章通信教育であれば「X」をつけられて戻ってくるような、「手を、」の「、」の位置がカワイイ。と思える人であれば、この小説はサクサクと読みめられるだろうし、いくつかの戸惑いを通り越して読み通した人にとっては、とても重要な小説になっ…

 人間は堕落する。それを防ぐことはできないし、人を救うことはできない。

アラスター・グレイの「ラナーク」や「哀れなるものたち」を読んで、エリザベス・ボウエンの「エヴァ・トラスト」やら厚い翻訳小説を読むのは幸せだ。家で読む小説を選ぶ基準は、ただその本の厚さだけだ。物語はときにその量だけで質を凌駕する。 しかし、た…

 生者にも死者にも無頓着な世界 コーマック・マッカーシー

わたしの部屋の本棚と床は、雑然としながらもひたすら面白い小説とかとにかく立派な小説とか何度も読み返せずにはいられない小説といったような見えないラベルが貼られて区分別けができている。そこからさらにレイモンド・カーヴァーやJ・D・サリンジャーや…

 クマの中の人

わたしは表紙やタイトルが熊であれば、とりあえず買っとけの人であるので、安東みきえの「頭のうちどころが悪かった熊の話」も表紙でお持ち帰り。素敵な動物短編小説集だった。短編集の魅力は、その作者のグリップ力のような手触りのような感触のような味覚…

 町田康

落語特集の雑誌のBRUTUSを買ったり、「しゅべれどもしゃべれども」を読んだり、たぶん映画も観ようとしていたり、そのうち落語を聴きにいきたいわ。というぷち落語ブームなこのごろ。そして、BRUTUSにも登場していた町田康の小説こそ、落語だなあと感じてい…

 こうちゃん

何かをうしなう。ということを描いた世にあまたある物語で、わたしにとって完璧な消失の物語は、須賀淳子の「こうちゃん」だ。これは酒井駒子の絵があまりに美しいので絵本として包まれて売られているのだけど、須賀敦子が唯一残したうつくしい大人の物語だ…

 ではないけど

「チャーリーとの旅」ジョン・スタインベックasin:4591097269。「存在することの習慣 フラナリー・オコナー書簡集」asin:4480836438 できるかなクアトロ 西原理恵子asin:4594053513を3人の作家が好きな自分への証拠として読んだ。スタインベックとオコナー…

 日本の景色は日本人に

美術館に行くと、それと同じか時にはそれ以上の熱気でお店をオニ見してしまう。そして今回は一世一代の買い物をした。ような気がする。作品を部屋に飾るつもりで買ったのに、そもそもわたしの家にそんな部屋はないことに帰ってから気づく。が、せっかくつい…

 面白さがわからないにもほどがある

最近手にする本は面白さがわからない。道尾秀介、安達千夏、松久淳のそれやあれや。しかし何といっても村上春樹の「村上かるたうさぎおいしーフランス人」ASIN:4163689400 はすごかった。あしかが「わたしも先を急いでいます。あしからず。なーんちゃって。…

 愛は死ぬ

わたしは、子供の頃から自分や近しい人が死ぬことをシュミレーションし続けてきたので、誰が死んでも微塵も動じることはない。そんなわけだから猫の定吉=パスタが死ぬことも充分に覚悟をしている。車に轢かれた野良猫の死体を見ても、彼女がこうなることもあ…

 Boys Don't Cry BY 田口賢司

田口賢司の代表作もまた、本人が何と言おうと「ボーイズ・ドント・クライ」のはず。とこの小説のタイトルはThe Cureの「Boys Don't Cry」からとったとらしいのだけど。わたしは、この小説も、どういうわけか意地だけで読んでみた、「センチメンタル・エデュ…

 うまくいかないなら それは坊やだからサ

最近は同じ物語を小説や漫画やアニメでくりかえす。佐藤賢一の「傭兵ピエール」や酒見賢一の「墨攻」や佐藤大輔の「皇国の守護者」を漫画でも読み、墨攻にいたっては映画までを見る。というわたしの繰り返しブームは、「ケロロ軍曹」をDVDのアニメで観て…

 わたしは言葉である

わたしが23番目くらいに好きな作家であるらしい片岡義男は、たぶん最近そんなことを言っている。と、現代口語演劇とモテ囃され続けてここ数年の五反田団の前田司郎やらチェルフィッチュの岡田利規やらポツドールの三浦大輔らの舞台を見たり文書を読む度に…

 SFが読みたい!2007年版も面白い であります

ここ数年はジェフリー・フォードの年なのかもしれない。日本での第一作「白い果実」はジェフリー・フォードの作品というよりも、山尾悠子が翻訳のようなリライトのような役割をしている。ということで、山尾悠子の文書を読みたいがために、手を取らせたとこ…

 おとながい

本の大人買いとは、全集やシリーズをまとめて買うことよりも、同じ本を何冊も買うことだ。家にあることや読んだことを忘れて買ってしまう。馬鹿買いなのかもしれない。そもそも発見できないだけで最近買っている文庫本の殆どは何時か読んだ本だったのかもし…

 このミスの国内1位はいつもおどろく

今年のこのミス国内1位平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」を読む。えーっつ。と読み終わっても、この短編集の評価が高いことがよくわからない。とはいえ、ここ数年の法月綸太郎や歌野晶午のような、わたしにとってはどこからどこまでもひとつも…

 もう小説は一気に読まないと昨日読んだところから忘れてるし

たぶん小学生以来というくらい、今年に読んだ小説の量は少なかった。と、実際に小説だけでなく小学高学年の方が音楽も絵も何もかもアカデミックな?教科書に載っている古典的なものを手に入れようとしていた。まさかそれが、「大人になっても」という言葉が…

たましいの作り方

と、今年、何度も読み返した本はアリステア・マクラウド。トイレや風呂場や電車や布団の上で読んだ。アリステア・マクラウドの物語は弱り切った心で読める唯一の小説だった。ここ数年で知った小説家ではまい一番なのだけど、彼に次いで、弱き心の人のための…

 執念もわたしが持っていない言葉

単行本を持っているのに、通勤電車で読むために時間が空くと文庫本を買ってしまうことがある。ということで、キオスクにおいてあった「バッテリー2」の文庫本を買い、ホームで電車が来るのを待っている間にそのあとがきを読んで強い電車風を顔に受けながら…

古川日出男

古川日出男の長編も短編も、その核のようなものに村上春樹の亜流的なものに感じてしまうのだけど、それがあまりに直截であった「中国行きのスロウ・ボートRMX」は、殆どであろうオリジナルを愛する読者にとって、読まなかったことにしよう感を与えてしま…

 馳星周の功績は周星馳を日本に紹介できたこと

ではないだろうか。と、思うくらいが精一杯の「長恨歌」読後感。 「不夜城」は遠くで響く歓声だ。彼がこの「不夜城」をもってデビューをしたときは、多くの人がジェイムズ・エルロイやアンドリュー・ヴァクスの名前を挙げて、彼の処女作を称えていた。そして…

 赤ん坊が松明代わりに

もしも、みのもんたに「今の日本を代表する作家を3人あげなさい。サア」なんて訊かれたら、きっとわたしは、阿部和重と舞城王太郎と松尾スズキをあげるだろう。まあ、「ファイナルアンサー?」みたいに訊かれると、また違う答えを言ってしまいそうだけど。 …

 阿部和重とシベールの日曜日

わたしにとっての阿部和重の小説の印象は、「二度は読みません」なのだけど。それでも、日本を代表する作家かもしれないですね。と、襖の陰から控えめにはつぶやける。しかし、シンセミアのあとに、これからはさすがに違う路線で行くのでしょう。と思ってい…

  野ブタ。をプロデュース

今回の芥川賞を最後まで阿部和重と争ったという、白岩玄の「野ブタ。をプロデュース」ISBN:4309016839 は、つまらないわけでもなく。ふんふんふん。と、読み終えてしまえる物語だった。新人の小説として、こういう小説が出てくることはいいことだし、この小…

 芥川賞がなにであったにしろ

今年の芥川賞候補は、どういうわけか少し前の人が入っていて嬉しい。石黒達昌と井村恭一は一冊だけ。田口賢司はすでに最初から時代遅れの恋愛小説風であった「ボーイズ・ドント・クライ」と「センチメンタル・エデュケイション」がどういうわけか、今でも本…

 せっかくだから

ミドルセックス作者: ジェフリー・ユージェニデス,Jeffrey Eugenides,佐々田雅子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2004/03/24メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 401回この商品を含むブログ (22件) を見ると、新年として去年読んだ小説をぱらぱらと読み直…

 それはミステリイじゃあないですから

たとえば、ネットで簡単に、松尾スズキも終わったとか、村上春樹は無駄に歳をとったとか。その素人の傍若無人な言い放しっていうのは、匿名性にあまりにも無責任によりかかっているのではないかしら?ねえ。と、可愛く疑問に思っていたわたしですが。 撤回。…

だからといって大人の書いた物が

ミステリィ小説は年間ベストテンの印象を強くするためなのか秋に出版される量が多い。じゃあ、このミス常連の人たちの小説はどうだったかというと。思い出せるだけで、 横山秀夫の「出口のない海」は、ものすごい直球の演歌だった。高校野球の球児に人間魚雷…

 桐野夏生 「リアル・ワールド」ISBN:4087746194 人の死には軽重がある

桐野夏生の一筋縄ではいかない女性達模様というのは、女子高生を描いても健在。そして、OUT以来、主人公を勝手に作者とダブらせて読んでしまうわたしは、この小説の中の「取り返しのつかないことってあるんだよ」がストンと来た。ここで説明される「取り…

 アフターダーク 簡単に

村上春樹がその最初の作品から描き続け、拘り続けていることは変わっていない。それは、こちら側と向こう側の二つの世界を描くこと。そして二つの世界の狭間や、二つの世界の行き来を描くことだ。二つの世界とは、本人が何度も解説しているように、凡そ生と…