たましいの作り方

と、今年、何度も読み返した本はアリステア・マクラウド。トイレや風呂場や電車や布団の上で読んだ。アリステア・マクラウドの物語は弱り切った心で読める唯一の小説だった。ここ数年で知った小説家ではまい一番なのだけど、彼に次いで、弱き心の人のための作家になってくれたのが、ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」
あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
池上冬樹氏の朝日新聞の書評はものすごい宣伝にはなったろうけど、少し見当違いなのではないだろうか。そもそも、見当違いは池上氏だけでなく、この本を早川書房がハヤカワポケットミステリとして出してしまったところ。本来は新潮クレストから出ても何の違和感もなかったし、早川であれば、せめてハードカバーでミステリという匂いをさせないで、書店に並べるべき。とはいえ、きっとこの何も謎もミステリもない「あなたに不利な証拠として」は、このまま多少の本格好きな人たちに疎まれながらも年末の「このミス」の上位に選ばて売れれば、幸せなのかもしれない。幸せというのは、もちろん早川書房のことではなくて、間違えて、この本を手にしてしまった人たち。おそらく思ったような殺人や謎や事件解決のカタルシスは全く無いのだけど、小説の、物語のカタルシスがある。たまたま作者が婦人警官であったので、婦人警官である主人公の物語を借りた、自分自身の告白書のように読めてしまう。そして作者は、何度か物語が好きか?という台詞すら登場人物にはかせ、そして最後には、物語りによって、自分自身を救おうとしている。その神がかり的な結末にあやかろうと、呑気な読者は何度も読み返す。翻訳者があとがきで河合隼雄の「人間はこの世において財産を作り、家族を作り、いろいろなものを作る。しかし、それと同時に、たましいの方もつくりあげるべきではないか」という文を引用しているが、たましいを作るとは、いい響きなのだけど、本当のところ、どういうことなのだろう。父親の世話をする度に彼やその息子は、たましいの作り方など何も知らなかったことを思い知らされるが、猫はたましいの作り方を知っているらしいよ。こっそりと彼から教わったらしい。