周星馳はカンフーハッスルを作るために生きてきた

のに違いない。
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この映画は、彼の全ての夢が端から端までぎゅうぎゅうに詰まった一遍の詩だ。前作の「少林寺サッカー」は、それこそタイトルと予告編で十分に内容がわかり、それでいてその期待を裏切らないにしろ、わたしにとってはそれ以上の特別なものにはならなかった。それでもわたしは、これが周星馳の映画監督としての頂点で終着駅のようなものだと不遜にも父親顔でロッキングチェアに揺られて微笑んでいたのだけど。その忘れていた頃にやってきたこの「カンフーハッスル」は、彼自身の映画愛で出来上がっていた。物語の骨組みは過去のカンフー映画仁侠映画マカロニウェスタンの黄金パターンを踏襲し、それでいて見ているこちらの想像を超えたアイデアで驚かされる。ブルース・リャンをはじめ往年のカンフー役者らの起用は、チャウ・シンチー自身が少年時代に見て憧れたカンフー映画への憧憬そのものだろうし。そして、そこには決して苦労を重ねて上達をする世界ではなく、たまたま才能が目覚めて、少年時代に路上で買わされた冊子「如来神掌」の型を知っていたからという、ここで一番の「ありえねー」℃が沸騰。しかし、まだまだ上がいますからという緻密な構成は、少年ジャンプ的な強さのインフレを起こしているのかもしれないけど、もはやどこまで行っても着いていきます状態にさせられる恍惚感に充ちていた。いい歳をした中年男子から、中学生高校生までをも膝をたたいて興奮させ、親と一緒に来ていた入学前の子供たちを前のめりにさせて、「ヒーヒー」叫ばせながら画面を見入らせる力というのは、それこそ周星馳の魔法のような力が映画館では起きていた。そして、相変わらず純粋なようでいて、だからどうなのよ的な少年が少女を想う気持ち。いつも、女性を出しつつも、決して女性のために闘っているのではないらしい構図。ハリウッドの力さえ借りて作ってしまったこれもまた自分愛の自分のための作家映画だったのでは。そして、面白さをもインフレ状態を起こしている周星馳は、さすがにここが頂点なのでしょう。もうこれ以上先はないのでしょう。とヒーヒー体を震わせながらわたしは願った。