体脂肪は52%くらいでいいわ

Shipbuilding2008-01-21

彼女は風呂場の奥にある体重計に乗るのが好きで、毎日何度も乗って体重と体脂肪を計る。彼女のデータが入ったボタンをわたしが押しにきて体脂肪が表示されるまで、じっとして動かない。わたしは赤ちゃん言葉とか猫言葉とかを散弾銃で脅されても頑なに使えないつまらない大人なので、「運動不足ですね。でも、きみはそのくらいの方がいいですよ」と対等すぎて面白みのない言葉を耳元で言う。彼女は耳をぴくぴくさせて「だから?」みたいな視線をわたしにあびせて、体重計から雪の女王様のように降りる。わたしが無口で面白くないのは、何に対しても位置関係がわからなくなるからなのだ。もうきみとも何も話したくないよ。と、いじけたふりをしながら、猫に愛情の押し売りをかけて、猫好きの南方熊楠展を見に、ワタリウム美術館へ。南方熊楠の映画が中断されたままであることは、知っていたのだけど、熊楠を飼い猫が徳利を二階まで運ぶという町田康が演じていたとは知らなかった。そして、展示の数々の南方熊楠の男前ぶりの写真に見入る。今のわたしの中での日本人男前一位は南方熊楠に。自らの狂気を防ぐために学問をせざるをえなかったという彼の全集を図書館で借りる。熊野にもマンダラにもキノコにも幽霊にも粘菌にも夢中になるが、男色についての往復書簡がまた特別面白い。南方熊楠全集を丸三日かけて読んだ感想を一行でまとめると、「男色は体だけでなく心も結合しなければだめ。生命はみな幽玄世界に通じている」もう、大切なのはそれだけ。美味しい肉ジャガの作り方は、醤油とミリンを一対一。それだけ。と、そんなクマグスのことばかり考えている間に時間潰しにみた映画「ジェシー・ジェームズの暗殺」も大好きな映画だった。これも、感想を一言でまとめると、「男どもの自殺願望合戦」それだけだ。ああ、殺したいほど愛してしまう、殺されてたいほど孤独を抱えてしまう男どもの視線のいやらしさったら。わたしの男前世界ランク上位達のサム・シェパードブラッド・ピットケイシー・アフレック、ポール・シュナイダーが、愛する者に殺されたがっている芝居を美しく演じる。そして、音楽のニック・ケイヴが自ら唄う酒場の場面が、なんと完璧な西部劇であったことか。ハリウッド映画はみんな西部劇にすべし。

このところ、毎日のレイトショウで遅い時間に帰ると、猫はなぜか寒い風呂場の前にいる。わたしと視線があうと、溜息をつきながら体重計に乗ってわたしがボタンを押すのをじっと待っている。そして、わたしは体の半分が脂肪できている彼女を抱きあげる。