王様がそんなことを言ったら悲しいです

Shipbuilding2008-01-27

長い間施設に行き続けると、その症状の進行具合までがわかってくる馴染みの人(こちらにとってだけの)も出来てくる。その女性はいつもきちんとした服装で杖を手にしている。たいていは施設の人に大声で指示をしているものだから、見舞いに来る人は、その人に挨拶をして通り過ぎる。看護士の人たちもその人と対等に接しているので、ややこしてくて楽しい。今日は、疲れた顔で父とテーブルに座って冷めたココアを飲んでいると、その人から「認知症は少しも恐くない。わたしは人生の最後の贈り物だと思っているのよ」と話しかけられた。「これは、少しも甘くない」とわたしの名前を犬の名前と取り違えている父親は答えた。その女性は「昔の出来事を少しずつ忘れていって、お父様のように辛さや苦しみもなくなって、産まれたてのときに戻るのはとても素敵なこと。だって、私ももう何も覚えていないのだから、これが最後のあの人からの贈り物だってことが、よくわかる」
それは、ここ数年でわたしが聞いたり学んできた認知症に関する意見の中でも、最も優れた発表だった。