何もかもが窓にくっついていた

Shipbuilding2008-02-10

朝走るためにウェアの準備をするものの、ヤン・ファーブル「死の天使」を見た興奮なのか、ただコーヒーの飲み過ぎなのか、うまく寝られずにそのまま雪の降らなかった日曜日の海沿いの道を走ることにした。手袋をつけて帽子を被りipodのイヤフォンを帽子の中に入れるところで、冬の朝の感触を味わう。朝陽が上りかけている時間の海沿いの道は、年齢層の高い人が相方や犬を連れてゆっくり歩いていた。わたしは面影ラッキーホールの歌詞を反芻するだけで何も考えずに手足を動かしていた。30分程度走ったところで折り返し、サイクリング道路から階段を上りきったところで急に朝陽を映した高層ビル街が現れた瞬間には、いつもトキメキを覚えてしまう。たとえ今日ipodから流れる曲が「好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた2000」だったとしてもだ。6車線の道路の海が見える車線は、恋人達の車が停車している。特にビル街の夜景で周りを囲まれる時間になるとアベック専用道路となり、わたしはびっしり止まった車の窓に視線を向けないように気をつけて走らなければならなくなる。この日は天気予報では雪だったから、朝から停まっている車は黒のハイルーフ4WDが1台だけだった。見てはいけないと思いつつ、すでに明るくなった窓から見えたのは、女が男の肩に凭れたまま、両手をあげて窓にクロスさせた手首だった。窓から見える限りは裸の男女に、車内は寒くないのだろうかと心配しながら、数歩走ったところで、何?車の窓で鶴の影絵?みたいなポーズをしている手首は鶴の鳴き声の真似をよくしていた彼女であることに気がついた。
そしてわたしは「あーっ」つって走った。「ミスター・ロンリー」をもう一度見に行きたくなった。ipodに入っていないテーマ音楽を脳内で鳴らした。わたしが走るところだけでも「カーキス禁止(それ以上の行為は3年以下の懲役)」という標識を作ってほしい。(ここでいう「以上」とはその値自体を含まないでもっと二人が親密になるあらゆる行為のこと)