アートはお金のためにある

森美術館では、よく耳を澄ますと、まわりはみんな中国人のカップルか中国語を練習しているカップルたちだった。
展示の「アートは心のためにある」というタイトルよりも、「現代美術は金融市場のためにある」というメッセージなのかというくらい、UBSの資本力の見せ物市という風情ぷんぷんなのだけど、展示してある作品は面白いのだから仕方ない。アレックス・カッツの「グッド・モーニング」は、今まで知っているアレックス・カッツのどんな人物画よりも切なくてぐっとくるし、オスカル・ムニョスの砂糖で作られた肖像画は、離れてみるほどコーヒーの染みが処刑された政治犯の苦しむ人物画になるという、いちいちどれもこれもうわあと感心したり誰彼にともなく中国語で語りたくなるコレクションだった。
美術館あとの展望台もまた熱い中国語の洪水ですごいことになっていた。あの展望台見学料金こみの美術館料金という商売気に不満がりつつ美術館に入る頃は明るかった空が電飾で染まった東京地図は美しかった。東京の夜景を見ながら窓に顔をくっつけつつ腰を抱えながら語られる恋人達の熱い中国語がお金とかアートとかヒルズの何もかもをも打ち負かしていた。