洞海湾 ー九州任侠外伝ー

一方、サモ・アリナンズのというか松尾スズキの10年ぶりくらいの再演「洞海湾 ー九州任侠外伝ー」は、ちょうど10年くらい古いという風情な物語ではあったのだけど。閉塞感から解放感。上昇志向と堕落志向。叶えられない夢とくだらない現実。神様と薬。ゲロと同性愛。これらを描かせたら、やはり松尾スズキの面白さと暗さは今でも色褪せない。そして、相変わらず汚さの最後にキレイな物を観られたような感覚にもさせられる。そんな満足感の上に、坂を上ってマジック・スープで頭から汗をかきながらカレーを食べる頃には、幸福感と満腹感で包まれていたはず。でもどうして、あんな遅い時間にカレー屋が満員で駅前のスーパーオオゼキが混んでいるの?
そして、家に帰って中国語講座を見て、猫に餌をあげるころには、こうも思ってしまう。サモ・アリナンズの事実上、最後の舞台が完全な松尾スズキ芝居であったのが、さびしい。さびしい。今でも劇団補欠のはずだけど平田敦子さんの芝居はかつてなくキレていたし久ヶ沢徹さんは石橋凌みたいな不気味な芝居を感動的にしていたけど、全然サモ・アリの芝居でなかったのがさびしい。舞台は良かったはずなのに。こんな芝居はサモ・アリじゃあないよな。倉森さんだったら、劇団のこんな終わり方を許すはずがない。とよくわからない気持ちにさせられるのは無い物ねだりだろうけど。黒縁の額に入った倉森さんを思い出しては、ああ、無念。